90歳代のおばあさま。娘さんの介護のもと、ご自宅で穏やかに過ごされている。
ちょっとしたことでケガをしてしまって、ご自宅に診療に伺ったときのこと。
処置を終えたあと、ご本人がベッドサイドに座って、僕たちに丁寧にお礼を言ってくださった。
その流れで、ふと娘さんのほうを向いて、こんな言葉がこぼれた。
「いつもニコニコして、いろいろ手伝ってくれて、本当にありがたいと思ってるよ。……こんなこと、言ったことなかったけどね」
娘さんの目には、ぽろりと涙がにじんでいた。
普段なかなか言えないご家族への感謝の気持ち。
僕たちが会話のきっかけになったことで、ご本人の気持ちが自然と引き出されたのかもしれない。
あるいは、いつもとは少し違う時間の流れや空気が、そっと背中を押してくれたのかもしれない。
もしかして、訪問診療の意義って、こういうところにもあるのかもしれない。
おばあさんと娘さんが作り出したあたたかい空間に、じーんとしながら、僕のなかでは、このとき、荒井由実さんの「やさしさに包まれたなら」が頭のなかを流れていた。ジブリ映画「魔女の宅急便」のエンディングでも流れている、あの名曲。曲も映画も個人的に大好きだったりする。
訪問診療の現場にて。患者さんやご家族の思いが届く瞬間がある。
病院でもないわけではないとは思うけど、やっぱり在宅だからこそなんだろう。


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