70代の女性、がんの終末期。
診療に伺うと、枕元に見慣れたCDのケースが置いてあった。
スピッツのベストアルバム―
僕が音楽を聴くきっかけになったアーティストだ。
きっかけは、あるドラマの主題歌になっていた「空も飛べるはず」
母がこの曲を好きで、そのドラマを観ていたのを、隣で一緒に観ていた。
あのとき、僕の心に深く響いた一曲だった。
いまでは、卒業式で歌われることもあるという。
世代を越えて、愛される曲。
身体がつらいときも、死を前にしたときでさえ、心にそっと平穏をもたらしてくれる。
音楽の力を、あらためて実感した。
音楽を含む芸術には、そんな力がある。
そして、それを生み出せるということ自体が、人間の尊さのひとつなのだと思う。
僕らが診療に入って、しばらくして。
おばあさまは、穏やかに息を引き取られた。
最期が近づいていた頃―
ベッドの上ではあったけれど、朦朧とした意識のなかで、大切な人たちと一緒に、どこまでも空を駆けていたのかもしれない。

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